あえてヴィオラを選ぶ大人が増えている理由

大人になってから弦楽器を始めたい――そう思ったとき、多くの人がまず思い浮かべるのはヴァイオリンだと思います。名前も知っているし、花形のイメージもある。ごく自然な発想です。
ところが最近、体験レッスンにいらっしゃる大人の方の中に、 「ヴァイオリンではなく、ヴィオラをやってみたい」 とおっしゃる方が確実に増えています。しかも、なんとなくではなく、はっきりした理由を持って選ばれる方が多いのです。
なぜ、あえてヴィオラなのか。この記事では、大人がヴィオラに惹かれる理由と、始める前に気になる不安について、弦楽器を教える立場からお話しします。読み終えるころには、「大人こそヴィオラ」という選択が、ずいぶん理にかなって見えてくるはずです。
そもそもヴィオラとは、どんな楽器か
まず簡単におさらいします。ヴィオラは、ヴァイオリンをひと回り大きくしたような見た目の弦楽器です。構え方はヴァイオリンと同じで、顎と肩ではさんで演奏します。
ただし、音はヴァイオリンより5度低く、 中音域を担当する楽器 です。声にたとえるなら、ヴァイオリンがソプラノ、ヴィオラはアルト。派手に歌い上げるより、音楽の内側を満たす役割を持っています。
そして、ヴィオラには他の楽器にないユニークな特徴があります。楽譜が「ハ音記号 (アルト記号)」で書かれていることです。この点は後ほど、大人が気にされる不安とあわせて詳しくお話しします。
理由その1: 主役でなくていい、という心地よさ
大人がヴィオラを選ぶ、いちばん本質的な理由がこれかもしれません。
ヴァイオリンは、多くの場面でメロディーを担う主役です。それは魅力であると同時に、 常に「聴かれる」立場 でもあります。音程のわずかなズレも目立ちますし、外すと真っ先に気づかれてしまう。始めたばかりの大人にとって、これは決して小さくないプレッシャーです。
その点ヴィオラは、音楽の内側を支える役割です。もちろん上達は必要ですが、いきなり全員の視線を浴びる場所ではありません。 「主役を張る」より「全体を支える」ことに喜びを感じる方 にとって、この立ち位置はとても心地よいものです。
仕事でも家庭でも、人前で目立つことに少し疲れた――そんな方が、ヴィオラの「縁の下」的な役割に惹かれていく。そんな場面を多く目にします。
理由その2: とにかく「誘われる」楽器である
ここは、あまり知られていない、しかし極めて実用的な理由です。
ヴィオラは、人手が足りていない団体が多いです。 アマチュアオーケストラも、弦楽アンサンブルも、室内楽のグループも、常にヴィオラ奏者を探しています。
これが何を意味するか。 ヴィオラが弾けるというだけで、演奏に参加する機会が驚くほど増える ということです。
大人になってから楽器を始める方の多くは、「いつか誰かと一緒に演奏してみたい」という夢を持っています。ところがヴァイオリンの場合、上手な人がすでに大勢いて、なかなか出番が回ってこないこともあります。その一方ヴィオラは「弾ける人が貴重」なので、歓迎されることが多くあります。
始めやすさと、その後の活躍の場。この両方を天秤にかけたとき、ヴィオラは大人にとって、実はとても賢い選択なのです。
理由その3: あの「渋い音色」が、大人の耳に響く
ヴァイオリンの華やかで輝かしい音に対して、ヴィオラの音は、落ち着いた暖かい響きを持っています。
若い頃は、きらびやかなヴァイオリンの音に憧れた人も多いでしょう。ところが年齢を重ねると、 ヴィオラの深く渋い音色のほうが、しっくりくる という方が増えてきます。派手さはないけれど、心の奥にじんわり届く。そういう音です。
面白いことに、この独特の音色は、ヴィオラという楽器が抱える「妥協」から生まれています。本来、あの音域を理想的に鳴らすには楽器がもっと大きくなければならないのですが、それでは人間が構えられません。理想と現実の折り合いをつけた結果が、あの唯一無二の音色なのです。 欠点が個性になっている――そんなヴィオラの成り立ちにも、大人は惹かれるのかもしれません。
理由その4: ゼロから始めるなら、スタートは同じ
「でも、ヴァイオリンのほうが情報も多いし、始めやすいのでは?」
そう思われるかもしれません。確かに教材や楽器の選択肢は、ヴァイオリンのほうが豊富です。しかし、 まったくの未経験から始めるなら、難しさの入り口はどちらも変わりません。
弓の持ち方も、左手で弦を押さえる感覚も、フレットのない指板で音程を作る難しさも、ヴァイオリンとヴィオラで共通しています。つまり「大人からでは遅い」という不安があるなら、それはヴァイオリンでもヴィオラでも同じこと。だったら、その後の活躍の場が広く、音色にも惹かれるヴィオラを選ぶ――という判断は、十分に合理的なのです。
気になる不安に答えます
とはいえ、ヴィオラならではの不安もあります。大人の方からよくいただく質問に、正直にお答えします。
ハ音記号は、難しくありませんか?
ヴィオラの楽譜は、ト音記号でもヘ音記号でもなく、ハ音記号 (アルト記号) で書かれています。世の中の多くの楽器と違う記号なので、身構える方が多いポイントです。
しかし、ご安心ください。 ゼロから覚える大人にとっては、ト音記号もハ音記号も、難しさは同じ です。どちらも「初めて覚える記号」であることに変わりはありません。まっさらな状態から始める大人は、むしろ素直に身につきます。苦労するのは、ヴァイオリンに慣れきってから転向した人のほうなのです。
楽器はどう手に入れればいい?
ヴィオラは、ヴァイオリンほど楽器店の在庫が豊富ではありません。また、大きさに明確な標準がなく、体格や腕の長さに合わせて選ぶ必要があります。だからこそ、最初の一挺は自分だけで決めず、講師に相談しながら選ぶのが安心です。サイズ選びを間違えると、構えづらさが上達の妨げになってしまいます。
大人の体で、無理なく続けられる?
ヴィオラはヴァイオリンより大きいぶん、構えたときの左腕の負担は少し増えます。肩こりや首の張りが気になる方もいるでしょう。ただ、これは正しい構え方を身につければ、多くは解決できる問題です。自己流で始めず、最初にきちんとフォームを習うことが、長く続ける最大のコツです。
それでも、最後は「音」で決めてほしい
ここまで理由を並べてきましたが、いちばん大切なことをお伝えします。
条件や理屈でヴィオラを選ぶのも一つですが、 最後は「この音を出したい」と思えるかどうか です。ヴァイオリンの音、ヴィオラの音、それぞれをじっくり聴き比べてみてください。ヴィオラの渋い響きに、胸の奥が反応するなら――それが、あなたにとっての答えです。
大人になってから楽器を始めることに、「今さら」も「遅すぎる」もありません。始めたその日が、いちばん早い日です。そして、周りと同じヴァイオリンではなく、あえてヴィオラを選ぶ。その選択が、これからの音楽人生を、きっと豊かにしてくれます。
まとめ
- 大人がヴィオラを選ぶのは、 「支える役割」の心地よさ に惹かれるから
- ヴィオラは人手が足りず、 合奏やアンサンブルに誘われやすい
- 暖かくて深い 音色が大人の耳に響く
- 未経験からのスタートなら、 難しさの入り口はヴァイオリンと同じ
- ハ音記号も楽器選びも、 正しく習えば乗り越えられる
Academy Customize では、ヴィオラを専門的にお教えしています。大人からのスタートも、ヴァイオリンからの転向も、どちらも歓迎です。「自分に弾けるだろうか」という段階からのご相談で構いません。まずは体験レッスンで、ヴィオラのあの音色を、実際に耳で確かめてみてください。
