子どもが「楽器を辞めたい」と言ったら

親がまずすべきこと

吉川 采花
子どもが「楽器を辞めたい」と言ったら ― 親がまずすべきこと

ある日、お子さんが突然こう言い出す。「もうヴァイオリン、辞めたい」。

楽しく通っていると思っていたのに。せっかくここまで続けてきたのに。月謝も楽器も、決して安くない投資をしてきたのに――親としては、動揺しますし、正直がっかりもします。「ここで辞めさせていいのか」「無理にでも続けさせるべきか」と、頭を抱えてしまう方も多いでしょう。

でも、ここで大切なのは、 すぐに結論を出さないこと です。「じゃあ辞めなさい」も、「ダメ、続けなさい」も、どちらも急ぎすぎです。

この記事では、お子さんが「辞めたい」と言ったときに、親としてまず何をすべきか、そしてどう見極めていけばいいかを、順を追ってお話しします。

「辞めたい」は、必ずしも「辞めたい」ではない

まず知っておいてほしいのは、 子どもの『辞めたい』は、言葉どおりの意味とは限らない ということです。

大人でも、仕事で嫌なことがあった日に「もう辞めたい」と口にすることがありますよね。でも、本当に辞めたいわけではなく、ただその瞬間のつらさを吐き出しているだけ、ということも多いはずです。子どもの「辞めたい」も、それとよく似ています。

  • 今の曲が難しくて、うまくいかない
  • 発表会が近くて、プレッシャーを感じている
  • 友達が遊んでいる時間に練習するのが嫌
  • なんとなくやる気が出ない時期に入っている

こうした一時的な気持ちが、「辞めたい」という言葉になって出てくることは、とてもよくあります。 本当に音楽が嫌いになったわけではない ケースが、実は大半なのです。

だからこそ、言葉をそのまま受け取って即決するのではなく、まずはその裏にある本当の気持ちを知ることが、最初の一歩になります。

親が最初にすべきこと:「なぜ?」を、責めずに聴く

お子さんが「辞めたい」と言ったら、まずやってほしいのは、 理由を、責めずに聞く ことです。

このとき、絶対に避けたいのが、頭ごなしの反応です。「せっかく続けてきたのに」「あんなにやりたいって言ったでしょ」――こうした言葉は、たとえ正論でも、子どもの口を閉ざしてしまいます。そうなると、本当の理由は永遠に分かりません。

代わりに、こんなふうに聞いてみてください。「そっか、辞めたいんだね。どうしてそう思ったのか、聞かせてくれる?」

大切なのは、 まず気持ちを受け止める姿勢 です。否定も説得もせず、ただ聴く。子どもは、自分の気持ちを分かってもらえたと感じると、少しずつ本音を話してくれます。そして多くの場合、その本音の中に、解決の糸口が隠れています。

理由が見えたら、選択肢は「辞める」だけではない

話を聴いてみると、「辞めたい」の本当の理由が見えてきます。そして理由が分かれば、 『続ける』か『辞める』かの二択ではない ことに気づくはずです。

たとえば――

「今の曲が難しくてつらい」なら 先生に相談して、少しやさしい曲や、本人が好きな曲を取り入れてもらう。 課題のレベルを調整する だけで、気持ちが戻ることはよくあります。

「練習がプレッシャーになっている」なら 一度、練習の量や頻度をぐっと減らしてみる。 『ちゃんとやらなきゃ』の重圧を外す と、かえって自分から弾き始めることもあります。

「なんとなく疲れている」なら 思い切って、 少しお休みしてみる のも一つの手です。数週間離れてみて、「やっぱり弾きたい」と戻ってくる子は少なくありません。辞めるのではなく「休む」という選択肢が、意外と有効です。

このように、 辞める前に試せることは、たくさんあります。 いきなりゼロにしてしまう前に、まずは調整できないかを考えてみてください。

それでも辞めたいなら ― 「辞める」は失敗ではない

いろいろ試してみても、それでもお子さんの気持ちが変わらないこともあります。そのときは、 辞めるという選択を、前向きに受け止めてあげてほしい と思います。

「途中で投げ出した」「続かない子になってしまう」――そんなふうに考える必要はありません。 これまで音楽に取り組んできた時間は、決して無駄にはなりません。

楽譜を読めるようになったこと。一つの曲を仕上げた達成感。人前で演奏した経験。コツコツ努力する力。それらはすべて、お子さんの中に確かに残ります。楽器を置いても、音楽を楽しむ心はなくなりません。むしろ、「無理やり続けさせられて音楽が嫌いになる」ことのほうが、ずっと惜しいのです。

そして、今は辞めても、数年後にまた「やりたい」と戻ってくる子もいます。 一度離れることが、一生の別れとは限りません。 その扉は、いつでも開いています。

迷ったら、先生に相談を

続けるか、調整するか、休むか、辞めるか。この判断を、親子だけで抱え込む必要はありません。 レッスンの先生は、心強い相談相手 です。

先生は、お子さんの様子をレッスンで直接見ています。家では見えない、教室での表情や取り組みを知っています。「最近、辞めたいと言っていて」と正直に伝えれば、その子に合った提案をしてくれるはずです。課題の調整も、声かけの工夫も、先生と家庭が連携すれば、できることが大きく広がります。

「辞めたいと言っているなんて、先生に言いにくい」と感じるかもしれません。でも、それはよい先生ほど、真剣に一緒に考えてくれる相談です。遠慮はいりません。

まとめ

  • 子どもの 「辞めたい」は、言葉どおりとは限らない
  • まずすべきは、 理由を責めずに聴く こと
  • 理由が分かれば、 『続ける』か『辞める』かの二択ではない
  • 課題の調整、練習量を減らす、 一度休む など、試せることは多い
  • それでも辞めるなら、 それは失敗ではない 。積み重ねは必ず残る
  • 一人で悩まず、 先生に相談 を

お子さんの「辞めたい」に直面すると、親としてはつい焦ってしまいます。でも、その一言は、お子さんの気持ちに向き合う大切なきっかけでもあります。慌てず、まずは耳を傾けることから始めてみてください。

Academy Customize では、お子さん一人ひとりの気持ちやペースを大切にしたレッスンを心がけています。「辞めたいと言っていて、どうしたらいいか分からない」というご相談も、いつでも歓迎です。お子さんが音楽と、その子らしいペースで付き合っていけるよう、一緒に考えさせてください。

吉川 采花
Author
東京藝術大学音楽部器楽科卒業。ウィーン市立音楽芸術大学修士課程修了。Hamamelis Quartett 第二ヴァイオリン奏者。
2021年、音楽レッスンサービス Academy Customizeを立ち上げる。現在は東京を拠点に演奏活動をしながら、全国各地で後進の指導にあたっている。
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