音大受験のソルフェージュ・楽典対策

何をいつから始めるか

吉川 采花
音大受験のソルフェージュ・楽典対策 ― 何をいつから始めるか

音楽大学や音楽高校の受験を考え始めたとき、多くの人が最初に戸惑うのが、実技以外の科目の存在です。

「専攻する楽器が上手ければいいのでは?」――そう思っていたのに、募集要項を見ると ソルフェージュ や 楽典 という科目が並んでいる。しかも配点は決して小さくない。「これは何を勉強すればいいの?」「いつから準備すれば間に合うの?」と、不安になる方は本当に多いのです。

この記事では、音大受験で問われるソルフェージュと楽典が具体的にどんなものか、そして対策をいつから、どう始めればいいのかを整理してお伝えします。 この2科目は、実は早く動いた人ほど有利になる 分野です。その理由も含めて、順を追ってお話しします。

なお、「そもそもソルフェージュって何?」という段階の方は、先に入門的な内容から読んでいただくと、この記事がより分かりやすくなります。

参考記事

なぜ実技以外に、この2科目が課されるのか

まず、根本的な疑問にお答えします。なぜ楽器の実技だけでなく、ソルフェージュと楽典が受験科目になっているのでしょうか。

答えはシンプルです。この2つが、 音楽を学ぶうえでの「基礎体力」そのもの だからです。

どれだけ指がよく動いても、楽譜を正しく理解できなかったり、自分の音が合っているかを聴き分けられなかったりすれば、その先で必ず頭打ちになります。逆に、この土台がしっかりしている人は、入学後に何を学んでも伸びていける。だから音楽の専門教育の入り口で、大学側はここを必ず確認するのです。

つまりソルフェージュと楽典の力は、「受験のためだけの勉強」ではありません。 その人が音楽家として成長していけるかどうかを映し出す鏡 なのです。

楽典とは何を勉強するのか

まず、比較的イメージしやすい楽典から見ていきましょう。

楽典は、ひとことで言えば 「音楽の文法」を問う筆記試験 です。言葉に文法があるように、音楽にもルールがあります。それを正しく理解し、使いこなせるかを、紙の上で答える試験です。

出題される内容は、おおよそ次のようなものです。

  • 音程 : 2つの音の距離を「完全5度」「長3度」のように正確に判別する
  • 音階と調 : 長調・短調の仕組み、調号の読み取り、調と調の関係
  • 和音 : 三和音や七の和音の種類、転回形の判別
  • リズムと拍子 : 拍子の意味、音符や休符の正確な理解
  • 移調 : ある調のメロディーを別の調に書き換える
  • 楽語・記号 : 楽譜に出てくるイタリア語などの用語や記号の意味

これらは一見バラバラに見えますが、すべてつながっています。音程が分かれば和音が分かり、和音が分かれば調が分かる――という具合に、積み上げ式で理解が深まっていきます。

楽典は暗記だけで乗り切ろうとすると必ず行き詰まります。 「なぜそうなるのか」という仕組みから理解する ことが、遠回りに見えて最も確実な近道です。

ソルフェージュの試験では何をするのか

一方、ソルフェージュは筆記ではなく、耳と声を使う実技的な試験です。大きく2つの内容に分かれます。

聴音 (ちょうおん) ― 聴いて楽譜に書き取る

ピアノで演奏される旋律や和音を聴き取り、それを五線紙に書き取る試験です。語学の書き取り (ディクテーション) の音楽版と考えてください。

音大受験では、単純な一本のメロディーだけでなく、 複数の声部が同時に鳴る旋律や、和音の連なり (和声聴音) を書き取る力が求められることもあります。音の高さだけでなく、リズムも正確にとらえて記譜しなければなりません。

新曲視唱 (しんきょくししょう) ― 初見の楽譜を歌う

その場で初めて見る楽譜を、正しい音程とリズムで歌う試験です。「初見 (しょけん)」とも呼ばれます。

ここで問われるのは歌の上手さではなく、 楽譜を見た瞬間に、頭の中で正しく音を鳴らせるか という力です。楽譜を音に変換する能力が、そのまま試されます。

この2科目の決定的な違い ― だから準備開始の時期が変わる

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい重要なポイントです。

楽典とソルフェージュは、同じ「実技以外の科目」でありながら、 習得にかかる時間の性質がまったく違います。

楽典 は、知識の積み上げです。仕組みを理解し、問題演習をこなせば、比較的短い期間でも得点力を上げられます。極端に言えば、集中して取り組めば数か月での仕上げも不可能ではありません。

ところが ソルフェージュ、特に聴音と視唱は、そうはいきません。 これは「耳を育てる」訓練だからです。耳や音感は、知識のように一気に詰め込めるものではなく、時間をかけて少しずつ育っていくものです。 一夜漬けが最も効かない分野 なのです。

だからこそ、対策を始めるタイミングが決定的に重要になります。

いつから始めるべきか

結論から言えば、 ソルフェージュは、早ければ早いほど有利 です。

理想を言えば、受験を意識する数年前から、日常的に耳を育てておくのがベストです。聴音や視唱の力は、積み重ねた時間にほぼ正直に比例します。直前になって慌てても、耳は急には育ちません。「もっと早く始めていれば」というのは、受験期に最もよく聞かれる後悔の一つです。

楽典についても、直前に詰め込むより、早めに仕組みを理解しておくほうが、応用問題にも対応でき、結果的に安定します。

もし今、少しでも音大・音楽高校の受験が頭にあるなら、 「まだ早いかな」と思う今このときが、始めどき です。早く始めて損をすることは、この2科目に関しては一つもありません。

独学の落とし穴

「参考書を買えば独学でできるのでは?」と考える方もいるでしょう。楽典に関しては、確かに独学でもある程度は進められます。良い教材も出ています。

しかし、注意すべき落とし穴があります。 独学では、自分の間違いに気づけない ことです。

特にソルフェージュの聴音や視唱は、自分では正しく書けた・歌えたつもりでも、実際にはズレている、ということが起こります。それを指摘し、正しい方向へ導いてくれる耳が、そばに必要です。誤ったクセを長期間かけて身につけてしまうと、後で直すのに何倍もの時間がかかります。

また、楽典も、独学だと理解が曖昧なまま暗記に走りやすく、少しひねった問題で崩れがちです。 「なぜそうなるのか」を対話しながら理解する ことで、はじめて本物の得点力になります。

受験という限られた時間の中では、遠回りをしている余裕はありません。正しい方向を最初から示してもらうことが、結局はいちばんの近道なのです。

まとめ

  • 音大受験でソルフェージュ・楽典が課されるのは、 音楽の「基礎体力」を測るため
  • 楽典は 音楽の文法を問う筆記試験 。仕組みからの理解が鍵
  • ソルフェージュは 聴音 (書き取り) と視唱 (初見で歌う) の実技
  • 楽典は短期でも仕上げられるが、 聴音・視唱は一夜漬けが効かない
  • だからこそ、 ソルフェージュは早く始めた人ほど有利
  • 独学は間違いに気づけないリスクがある。 正しい方向を示す指導 が近道

音楽大学・音楽高校の受験において、ソルフェージュと楽典は、実技と並ぶ大切な柱です。そして、早く動くほど確実に有利になる分野でもあります。

Academy Customize では、音大・音高の受験を見据えたソルフェージュと楽典の指導を行っています。自宅から受けられるオンライン での対応も可能です。「何から手をつければいいか分からない」という段階でのご相談も歓迎です。まずは、お子さん (あるいはご自身) の今の力を、一緒に確かめるところから始めてみませんか。

吉川 采花
Author
東京藝術大学音楽部器楽科卒業。ウィーン市立音楽芸術大学修士課程修了。Hamamelis Quartett 第二ヴァイオリン奏者。
2021年、音楽レッスンサービス Academy Customizeを立ち上げる。現在は東京を拠点に演奏活動をしながら、全国各地で後進の指導にあたっている。
講師プロフィールを見る →

体験レッスンを受けてみませんか?

プロの講師が、あなたに合ったレッスンをご提案します。

体験レッスンを申し込む