「先生に、そろそろソルフェージュもやりましょうと言われたのですが……ソルフェージュって、そもそも何ですか?」
これは、レッスンの現場で本当によく交わされる会話です。ヴァイオリンやピアノは知っていても、「ソルフェージュ」という言葉を初めて聞く方は少なくありません。音楽を長く続けてきた人にとっては当たり前でも、これから始める方には、まったく馴染みのない言葉なのです。
しかもこのソルフェージュ、「楽器のレッスンとは別に習ったほうがいい」と言われることが多い。「楽器が弾ければ十分では?」「わざわざ別に習う意味があるの?」——そう思うのは自然なことです。
この記事では、ソルフェージュとは何なのか、なぜ楽器のレッスンと切り離して学ぶのか、そして大人からでも身につくのかを、できるだけかみくだいてお話しします。
ソルフェージュを一言でいうと
ソルフェージュとは、ひとことで言えば 「音楽の読み書き」を身につける訓練 です。
私たちは言葉を「話す」だけでなく、「読む」「書く」「聞き取る」ことができます。この4つが揃って、はじめて言葉を自由に使えます。音楽も同じです。
楽器を弾くのは、言葉でいえば「話す」にあたります。では、聞こえてきた音を楽譜に書き取ったり、楽譜を見てすぐ歌えたり、和音を聴いて何の和音か分かったり——こうした「音楽を読み書きする力」はどこで育つのか。それがソルフェージュなのです。
楽器=音楽を「話す」練習。ソルフェージュ=音楽を「読み書き」する練習。 この対比を頭に置いておくと、以降の話がすっきり理解できます。
ソルフェージュで具体的に何をするのか
「読み書き」といっても抽象的なので、実際の中身を見てみましょう。ソルフェージュには、大きく3つの柱があります。
1. 聴音(ちょうおん)― 聞いて書き取る
先生が弾いたメロディーや和音を聴いて、それを楽譜に書き取る訓練です。語学でいう「ディクテーション(書き取り)」に近いものです。
最初は「ドレミ」の単純な旋律から始まり、少しずつ音が増え、リズムが複雑になり、やがて2つ・3つの声部が同時に鳴るものまで書き取れるようになっていきます。
聴音を続けると、 音を聴いた瞬間に「あ、これはドとミとソだ」と分かる耳 が育ちます。これがあると、演奏中に自分の音が合っているかどうかを、自分で判断できるようになります。こうした耳をどう育てていくかは、耳の訓練でも具体的にお話ししています。
2. 視唱(ししょう)― 楽譜を見て歌う
初めて見る楽譜を、その場で正しい音程とリズムで歌う訓練です。「初見(しょけん)」とも呼ばれます。
「歌」と聞くと声楽のように思われるかもしれませんが、ここでの目的は上手に歌うことではありません。 楽譜を見て、頭の中で音を鳴らせるようにすること が狙いです。
料理人がレシピを読んだだけで味を想像できるように、音楽家は楽譜を見ただけで音が聞こえてこないといけません。視唱は、その「頭の中で音を鳴らす力」を鍛えます。
3. リズム ― 拍を体に入れる
楽譜のリズムを、手を叩いたり声に出したりして正確に刻む訓練です。
「リズム感がない」と悩む方は多いですが、リズム感は生まれつきではなく、訓練で身につくものです。ソルフェージュでは、複雑な拍子や細かい音符を、体で理解できるまで繰り返します。
このほか、レベルが上がると和音の聴き分け(和声)や、楽典(音楽の文法)なども含まれてきます。
なぜ楽器のレッスンと「別に」習うのか
ここが、この記事の核心です。「楽器を弾きながら自然に身につくのでは?」という疑問に、正面からお答えします。
理由1:楽器のレッスンでは時間が足りない
楽器のレッスンは、実際に弾くだけで時間がいっぱいになります。姿勢、音程、弓の使い方や指づかい、曲の表現——教えることは山ほどあり、そこに聴音や視唱をていねいに組み込む余裕は、正直ほとんどありません。
だからこそ、読み書きの部分は独立させる。 楽器の時間は「話す」ことに集中し、ソルフェージュの時間で「読み書き」を鍛える。 役割を分けたほうが、どちらも深く学べるのです。
理由2:楽器を通すと、耳の訓練にならないことがある
これは意外に見落とされがちな点です。
たとえばヴァイオリンで音程が外れているとき、原因が「耳が音程のズレに気づいていない」のか、「気づいているけれど指が正しい場所を押さえられない」のか——楽器を弾いているだけでは、切り分けが難しいのです。
ソルフェージュで楽器から離れ、声と耳だけで訓練すると、 純粋に「聴く力」そのもの を鍛えられます。指の技術という要素を取り除くからこそ、耳が育つのです。
理由3:土台があると、曲の習得が何倍も速くなる
これが、いちばん実感していただける効果かもしれません。
楽譜を読む力が育っていない人は、新しい曲をもらうたびに「この音はドかな、レかな」と一音ずつ解読するところから始めます。これは、外国語をアルファベット一文字ずつ読んでいるようなもので、途方もなく時間がかかります。
ソルフェージュで土台ができている人は、楽譜を見た瞬間に流れが頭に入ります。だから曲そのものの表現に、早く進める。 遠回りに見えて、実はソルフェージュこそが上達の近道 なのです。
「楽器が弾ければソルフェージュは要らない」は本当か
結論から言えば、 独学や趣味の範囲なら、なくても弾けます。 好きな曲を、時間をかけて覚えて弾く——それも立派な音楽の楽しみ方です。
ただ、こういう場面で必ず壁にぶつかります。
- 新しい曲の譜読みに、いつまでも時間がかかる
- 合奏で、自分のパートを見失う
- 自分の音程が合っているのか、自分で判断できない
- 暗譜がなかなか安定しない
- 少し難しい曲になると、途端に手が出なくなる
これらはすべて、 「音楽を読み書きする力」の不足 から来ています。楽器の練習量を増やしても解決しにくく、ソルフェージュで根本から底上げするのが結局は近道です。
たとえば「楽譜がなかなか読めない」という悩みが、ソルフェージュを取り入れることでどう変わっていくかは、楽譜が読めない悩みを解消!ヴァイオリン×ソルフェージュで身につく基礎力で実際のレッスンの様子とともに紹介しています。
「なんとなく行き詰まってきた」という感覚は、多くの場合ここに原因があります。
大人から始めても、耳は育つのか
「絶対音感は子どものうちしか身につかない、と聞きました。大人からでは無駄では?」——これもよくいただく質問です。
まず整理しておくと、ソルフェージュで育てるのは、いわゆる「絶対音感」ではありません。 「相対音感」 ——ある音を基準に、その隣がどれくらい離れているかを聴き分ける力です。
そして、 相対音感は大人からでも十分に育ちます。 これはきっぱり申し上げられます。絶対音感が幼少期に限られるのとは違い、相対音感は年齢に関係なく、訓練した分だけ伸びていくものです。
むしろ大人には、子どもにない強みがあります。理屈で理解できることです。「なぜこの2つの音は濁って聞こえるのか」「この和音はどういう仕組みか」——理論とセットで学べる大人は、子ども以上に速く、深く納得しながら進めることも珍しくありません。「もう遅い」ということは、まったくありません。
なぜ音大受験では必須科目なのか
音楽高校・音楽大学の入試では、専攻する楽器の実技と並んで、ソルフェージュがほぼ必ず課されます。聴音や視唱が試験科目になっているのです。
なぜでしょうか。それは、 ソルフェージュの力が、その人の「音楽の基礎体力」をそのまま映し出す からです。
どれだけ指がよく動いても、耳が育っていなければ、その先で必ず頭打ちになります。逆にソルフェージュの土台がしっかりしている人は、これから何を学んでも伸びていける。だから音楽の専門教育の入り口で、必ずここを見るのです。
受験を考えていなくても、この事実は一つのことを教えてくれます。 プロが「これが土台だ」と定めているものを、早く始めて損はない ということです。
いつ始めるのがいいのか
理想を言えば「早ければ早いほど良い」ですが、これは「今より早い日はない」という意味です。何歳であっても、始めたその日がいちばん早い日です。
お子さまなら、楽器と並行して早くから触れておくと、その後の伸びがまったく変わります。大人の方なら、行き詰まりを感じたそのときが、始めどきです。
そして今は、 ソルフェージュを自宅でオンラインで学ぶ こともできます。聴音も視唱も、対面と遜色なく進められる時代になりました。「近くに教えてくれる場所がない」という理由で諦める必要は、もうありません。
まとめ
- ソルフェージュ とは、聴音・視唱・リズムを通じて「音楽の読み書き」を身につける訓練
- 楽器のレッスンが「話す」練習なら、ソルフェージュは「読み書き」の練習。 役割が違うから別に習う
- 楽譜を読む力・音を聴き取る力が育つと、 曲の習得が何倍も速くなる
- 育てるのは絶対音感ではなく相対音感。 大人からでも十分に伸びる
- 音大受験で必須なのは、それが 音楽の基礎体力そのものだから
楽器がなかなか上達しない、譜読みに時間がかかる、自分の音程に自信が持てない——そうした悩みの多くは、ソルフェージュで解決できます。
Academy Customize では、プロ仕様のソルフェージュを対面でも自宅からのオンラインでもお受けいただけます。「何から始めればいいか分からない」という段階からのご相談も歓迎です。まずは体験レッスンで、ご自身の耳の現在地を確かめてみてください。

