「ヴァイオリンとヴィオラって、大きさが違うだけですよね?」
レッスンの体験にいらっしゃる方から、本当によく聞かれる質問です。答えは「半分正解で、半分間違い」。確かに見た目はよく似た兄弟のような楽器ですが、音域も、読む楽譜も、音楽の中で担う役割も、それぞれまったく違います。
そして意外なことに、この3つの違いをきちんと説明した情報は、あまり見当たりません。楽器店のサイトは「買う」前提で書かれていますし、「弦楽四重奏」という言葉は知っていても、中で何が起きているかまでは知られていないのが実情です。
この記事では、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを日々教えている立場から、3つの楽器の違いと、「では自分(あるいは子ども)はどれを選べばいいのか」までをお話しします。
まずは一覧で比べてみる
細かい話に入る前に、全体像をつかんでおきましょう。
| ヴァイオリン | ヴィオラ | チェロ | |
|---|---|---|---|
| 全長の目安 | 約60cm | 約68〜72cm | 約120cm |
| 調弦(低い弦から) | G・D・A・E | C・G・D・A | C・G・D・A |
| 音域 | 高い | 中くらい | 低い |
| 楽譜(音部記号) | ト音記号 | ハ音記号(アルト記号) | ヘ音記号 |
| 構え方 | 顎と肩ではさむ | 顎と肩ではさむ | 床に立てて抱える |
| 声にたとえると | ソプラノ | アルト | テノール〜バス |
| 弓 | 細く軽い | 少し太い | 短く重い |
ここで注目していただきたいのは、 ヴィオラとチェロの調弦が同じ だという点です。C・G・D・A——実はこの2つ、ちょうど1オクターブ違いの兄弟なんです。ヴィオラを覚えればチェロの音の並びも同じ、というのは、あまり知られていない面白い事実です。
一方でヴァイオリンは、ヴィオラより5度高い調弦になっています。
ヴァイオリン ― 歌う「主役」
3つの中でいちばん小さく、いちばん高い音が出るのがヴァイオリンです。
役割は、ほとんどの場合「メロディー」。 オーケストラでも弦楽四重奏でも、聴き手の耳に真っ先に届く旋律を担当するのがヴァイオリンです。人の耳は高い音に注意が向きやすいので、必然的に「主役」を任されることになります。
そのぶん、要求されるものも厳しい世界です。音が高いということは、 わずかな音程のズレも目立つ ということ。オーケストラでヴァイオリンだけが第1・第2と2つのパートに分かれているのも、それだけ人数と厚みが必要とされている証拠です。
始めるなら: 分数楽器(子ども用の小さいサイズ)が最も充実しているのがヴァイオリンです。小さいものは1/16サイズから存在し、3歳ごろから始められます。楽器も教材も選択肢が多く、「まず何か弦楽器を」と考えるなら最も入りやすい楽器です。
ヴィオラ ― 音楽を成立させる「陰の主役」
ヴァイオリンよりひと回り大きく、5度低い音域を持つのがヴィオラです。
ヴィオラだけの特徴:ハ音記号
ヴィオラを語るうえで外せないのが、 楽譜がハ音記号(アルト記号)で書かれている ことです。世の中の楽器のほとんどがト音記号かヘ音記号を使うなか、ヴィオラはほぼ唯一、日常的にハ音記号を読む楽器です。
「じゃあ難しいのでは?」と思われるかもしれませんが、ご安心ください。ゼロから覚える人にとっては、ト音記号もハ音記号も難しさは変わりません。むしろ、ヴァイオリンから転向した方が「読み替え」に苦労するくらいです。
「標準サイズ」が存在しない楽器
ヴィオラのもうひとつの特徴は、 大きさが決まっていない こと。ヴァイオリンやチェロには「4/4サイズ」という標準がありますが、ヴィオラには存在しません。おおむね38cm〜42cm(15〜16.5インチ)の間で、演奏者の体格や腕の長さ、求める音色に合わせて選びます。
なぜそんなことになっているかというと、 音響的に理想的な大きさで作ると、人間が構えられないほど大きくなってしまう からです。ヴィオラは物理的な理想と人間の身体との妥協の産物であり、あの独特のくすんだ、少し鼻にかかったような音色は、その妥協から生まれています。欠点が個性になっている楽器なのです。
「陰の主役」と呼ばれる理由
ヴィオラの役割は、内声——つまりメロディーと低音の「あいだ」を埋めることです。派手なソロは多くありません。しかし、弦楽四重奏からヴィオラを抜いてみると、音楽は途端に痩せて、空洞のように響きます。いなくても気づかれないのに、いなくなると全員が困る。 それがヴィオラです。ヴィオラという楽器の奥深さについては、音楽の陰の主役―ヴィオラの魅力とは?でも詳しくお話ししています。
知る人ぞ知る「ヴィオラの経済学」
ここは正直にお伝えしておきます。 ヴィオラは、圧倒的に人が足りていません。
アマチュアオーケストラも、音楽大学も、室内楽の現場も、常にヴィオラを探しています。ヴァイオリン人口とは桁が違うのです。つまり、ヴィオラが弾けるというだけで、演奏の機会は驚くほど増えます。「合奏やアンサンブルを楽しみたい」という動機で楽器を始める方にとって、ヴィオラは実は最も賢い選択肢かもしれません。
チェロ ― 人の声にいちばん近い低音
3つの中で最も大きく、床にエンドピン(金属の棒)を立てて、抱えるように演奏するのがチェロです。
役割は、音楽の土台となる低音(バス)。 ただしチェロが特別なのは、低音を支えながら、同時に朗々と歌えることです。チェロの音域は男性の声域とほぼ重なっており、「人の声にいちばん近い楽器」と言われるのはそのためです。バッハの無伴奏チェロ組曲やドヴォルザークの協奏曲が愛されるのも、あの音色に人間の声のような説得力があるからでしょう。
構えが楽、という利点: 意外に思われるかもしれませんが、身体への負担という点ではチェロが最も自然です。ヴァイオリンとヴィオラは、顎と肩で楽器をはさみ、左腕をねじって構えます。これは日常生活には存在しない不自然な姿勢で、肩こりや首の痛みに悩む方も少なくありません。その点チェロは、椅子に座って楽器を身体の前に置くだけ。 大人から始める方にチェロをおすすめすることが多いのは、この理由が大きい のです。
現実的な話: 一方で、大きさは正直に検討すべきポイントです。全長は約120cm、ケースに入れると人ひとり分の存在感があります。ただ、これも慣れの問題ではあります。電車で通っているチェロの生徒さんは実際にたくさんいらっしゃいますし、住宅事情についても、専用の部屋が必要というほどではありません。
3つに共通する「なぜ?」
なぜフレットがないのか
ギターには指板に金属の仕切り(フレット)があり、押さえれば誰でも同じ音程が出ます。しかし弦楽器3兄弟には、それがありません。
不便に思えますが、これは あえてそうしている のです。フレットがあると、音程は「決められた場所」に固定されます。フレットがないからこそ、伴奏の和音に合わせて音程をわずかに調整したり、指を揺らして音に表情をつける(ヴィブラート)ことができます。 自由と引き換えに、難しさを引き受けている のが弦楽器です。
そして、この「自分で音程を作る」という部分こそ、独学が最もつまずくところであり、レッスンの価値が最も出るところでもあります。具体的にどう精度を上げていくかは、音程の精度を上げるをご覧ください。
なぜ松脂を塗るのか
弓の毛(本物の馬のしっぽです)に塗る、あの琥珀色の固まりが松脂(ロジン)です。
松脂を塗っていない弓で弦をこすっても、 ほとんど音が出ません 。ツルツル滑るだけです。弦楽器の音は、松脂の摩擦で弓が弦を引っかけ、離し、また引っかける——という細かい振動によって生まれています。つまり松脂は、おまけの道具ではなく、音を出すための必須条件なのです。松脂を塗っているのに音が鳴らない、という場合はヴァイオリンで音が出ない原因とは?に原因を整理しています。
コントラバスは仲間じゃないの?
オーケストラの弦楽器といえば、もう一つコントラバスがあります。しかし実はコントラバス、 この3兄弟とは血筋が違います。
ヴァイオリン属(ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ)は5度ずつの調弦ですが、コントラバスは4度ずつ。肩の形もなで肩で、ヴィオール属という別の家系の名残を留めています。同じオーケストラに座っていながら、実は「遠い親戚」なのです。
では、どれを選べばいい?
楽器そのものをどう用意するか(購入かレンタルか)はヴァイオリンを習おう!でも楽器はどうする?にまとめています。ここでは「どれを選ぶか」に絞ってお話しします。
1. どんな音に惹かれるか これが最も大切です。理屈ではなく、「この音になりたい」と思えるかどうか。3つの楽器の演奏を聴き比べて、心が動いたものを選ぶのが、結局いちばん長続きします。
2. 主役を張りたいか、支えたいか メロディーを歌いたいならヴァイオリン。音楽の中に溶けて全体を支えることに喜びを感じるなら、ヴィオラやチェロが向いています。
3. 年齢と体格 お子さまなら、分数楽器の選択肢が多いヴァイオリンが始めやすいです。大人から始めるなら、身体の負担が少ないチェロは有力な選択肢。ヴィオラは、ある程度の腕の長さが必要になります。開始年齢についてはヴァイオリンは何歳から始められる?で詳しく解説しています。
4. 合奏をしたいか アンサンブルやオーケストラに参加したいなら、ヴィオラとチェロは需要が高く、声がかかりやすい立場です。音がひとつになる瞬間で、その世界の面白さに触れていただけます。
5. 持ち運びと置き場所 現実的な話として、チェロは大きい。ただし「無理」ではありません。
そして、これだけはお伝えしておきたいのですが—— 迷ったときは、条件から考えるのをやめて、もう一度「音」に戻ってください。
同じ曲を3つの楽器で聴き比べてみるのが、いちばん確実な方法です。たとえばバッハの「G線上のアリア」や、映画音楽のような親しみやすい旋律で構いません。ヴァイオリンで聴いたとき、ヴィオラで聴いたとき、チェロで聴いたとき——どれかで、明らかに胸の奥が反応するはずです。
体格や住環境といった条件は、たいてい何とかなります。しかし「その音になりたい」という気持ちだけは、後からは作れません。長く続けている方は、例外なくここが出発点になっています。
途中で持ち替えることはできる?
「一度選んだら、一生それ?」——そんなことはありません。
ヴァイオリンからヴィオラへの転向は、実際とても多い です。弓の使い方も左手の形も基本は共通なので、移行は比較的スムーズ。ハ音記号を覚える必要はありますが、それも数か月の話です。
チェロへの転向は、構えが根本的に違うため、もう少し時間がかかります。ただ、音楽の読み方や音程の感覚といった土台は、そのまま活きます。
一つの楽器で身につけたものは、決して無駄になりません。
まとめ
- ヴァイオリン :最も小さく高音。メロディーを担う主役。子どもが始めやすい
- ヴィオラ :ヴァイオリンより5度低い内声。ハ音記号を読む。演奏機会に恵まれている
- チェロ :ヴィオラの1オクターブ下。人の声に近い音色。身体への負担が少なく大人向き
大きさが違うだけ、ではありません。3つはそれぞれ違う役割を持ち、違う喜びを与えてくれる、別々の楽器です。
Academy Customize では、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロのすべてを、それぞれの専門家がお教えしています。「どれを選べばいいかわからない」という段階からのご相談も大歓迎です。「どれを選べばいいかわからない」という段階からのご相談も大歓迎です。ご希望や環境を伺ったうえで、その方に合った一挺をご提案します。

