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音楽と言語の深い関係 ― ウィーン留学から得た学び
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音楽と言語の深い関係 ― ウィーン留学から得た学び

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ヴァイオリンのヒント
目次

音楽と言語は、共に表現の手段として人間のコミュニケーションに欠かせない役割を果たしており、その関係性は深いものです。私がウィーンに留学していた時、この二つの関係に改めて気づかされました。ウィーンの公用語はドイツ語ですが、音楽もまたその言語の一部であると感じることが多く、音楽の演奏や理解において言語的なアプローチが非常に重要であることを実感しました。

今日は、音楽と言語の共通点について掘り下げていきたいと思います。

音楽の「フレーズ」と言語の「文章」

楽器の演奏において、「フレーズを意識しましょう」というアドバイスはよく耳にします。ここで言う「フレーズ」とは、言語における「文章」に相当します。たとえば、「今日、私は学校に行きました。学校でお友達とドッチボールをしました。」という文章を考えてみてください。この文章を無理に分割せずに、句読点を意識せずに読んでしまうと、意味が伝わらないばかりか、全く異なる印象を与えてしまいます。

音楽でも同様のことが言えます。フレーズの始まりと終わりを意識せずに演奏すると、聞き手にとっては音楽が途切れ途切れに聞こえ、意味が不明瞭になってしまいます。たとえば、音楽のフレーズを一気に弾こうとしても、その中に句読点が存在しないと、どこで息をつぐべきか、どこで感情を込めるべきかがわからなくなります。句読点があることで、文章はその意味がしっかりと伝わり、聞き手に理解されるのです。同じように、音楽でもフレーズごとのメリハリを意識することで、演奏に説得力を持たせることができます。

音楽の「小節」と言語の「単語」

次に、音楽の「小節」と言語の「単語」について考えてみましょう。音楽のフレーズは、通常、8小節で構成されることが多いです。たとえば、モーツァルトやベートーヴェン、ハイドンなどの古典派の作曲家の作品を見ても、8小節という単位は非常に一般的です。この8小節をさらに細かく分けると、2小節、2小節、4小節といったように、音楽のフレーズは言語における単語に似た構造を持っていることがわかります。

言語において、単語が集まって文章を作るように、音楽においても複数の小節が合わさって一つのフレーズを形成します。それぞれの小節がどのように組み合わさるかによって、フレーズの意味や感情が大きく変わるのです。たとえば、フレーズの中でどの小節が最も強調されるべきか、どこで和音が変化するのか、これらの要素は全て言語における語彙や文法に似た役割を果たしていると言えるでしょう。

音楽の「アウフタクト」と言語の「冠詞」

音楽には「アウフタクト」という概念があります。アウフタクトとは、曲の開始部分が1拍目以外から始まる場合のことを指します。このアウフタクトの役割は、言語における冠詞に似ていると言えます。冠詞は名詞の前に必ず付けられる言葉で、たとえば英語の「a」や「the」に相当します。アウフタクトも同じように、音楽の流れにおいて重要な役割を果たし、次の拍に対する準備を作ります。

ドイツ語の名詞には男性名詞、中性名詞、女性名詞といった区別があり、それによって冠詞も変化します。このように、名詞と冠詞は強い結びつきを持っていますが、アウフタクトと1拍目の関係も同じように、音楽における流れを作り上げます。アウフタクトを柔らかく弾くことで、その後に続く1拍目が穏やかに響くことになります。このように、アウフタクトと1拍目は、音楽において重要なつながりを持っているのです。

音楽の「強拍」と言語の「アクセント」

言語を学ぶ際には、どの単語にアクセントを置くべきかを学びます。例えば、ドイツ語では単語の初めにアクセントを置くことが多いです。このアクセントの意識は、音楽にも深く関わっています。もし音楽の全ての音を同じ強さで演奏してしまったら、それは非常に単調で、聴衆の心に響くことはありません。

音楽でも、どの拍を強調すべきか、フレーズの中で最も大切な音はどこかを意識することが重要です。強拍を意識することで、演奏に深みや陰影を加えることができ、まるで言葉で強調したい部分を意識的に発音するように、音楽にも感情的な強調を加えることができます。これによって、聴衆に強い印象を与える演奏が可能になります。

まとめ

音楽と言語には多くの共通点があります。フレーズ、単語、冠詞、アクセントといった概念は、言語の中で使われるものと非常に似ています。音楽を学ぶということは、言語を学ぶように、そのルールや流れを理解し、使いこなすことを意味します。ウィーンでの経験を通じて、音楽を「自分の言葉」として表現するためには、言語的な感覚を持つことが不可欠だと感じました。音楽という言語を学ぶことは、新たな語学を学ぶことと同じように、表現の幅を広げ、より深い理解を得るための鍵となるのです。

音楽は、ただの音の羅列ではなく、私たちの感情や思いを伝えるための言葉であることを、ぜひ感じ取っていただければと思います。

著者
吉川 采花
東京藝術大学音楽部器楽科卒業。ウィーン市立音楽芸術大学修士課程修了。Hamamelis Quartett 第二ヴァイオリン奏者。
2021年、音楽レッスンサービス Academy Customizeを立ち上げる。現在は東京を拠点に演奏活動をしながら、全国各地で後進の指導にあたっている。

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