ヴァイオリニスト 三雲はるな先生
静岡県立沼津西高等学校 芸術科を経て、東京藝術大学卒業。
在学中、奏楽堂モーニングコンサートに選抜され、藝大フィルハーモニア管弦楽団と共演。
同大学院修士課程 室内楽科を首席で修了。
また大学院在学中にスイスバーゼル音楽院に合格し、スイスに留学。同音楽院の修士課程、演奏家課程を共に首席で修了。
東京藝術大学大学院修了時に台東区長賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞。2022年にはBasler Förderpreis der Stiftung BOG 2022にて第2位獲得、これまでに静岡県学生音楽コンクール、日本クラシック音楽コンクール全国大会など多数のコンクールで優勝または上位入賞。
スイス留学中にオーケストラ研修生としてバーゼル交響楽団、バーゼル室内管弦楽団及びチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団にて研修を行う。
これまでに富士山静岡交響楽団、セントラル愛知交響楽団、チェンバーアカデミーバーゼル、バーゼル交響楽団と共演。
現在、ドイツ・マンハイム国立歌劇場管弦楽団正団員。
これまでに沼田園子、三上亮、H.ツァック、松原勝也、玉井菜採、B.ドール、A.オプレアン、R.オレクの各氏に師事。
Academy Customizeではオンラインレッスン・ムービーレッスンを担当しています。ヴァイオリンラボ (オンラインサロン)では、グループレッスンを担当しています。
前編: 恩師との出会い、中編: 入試との向き合い方を先にお読みください。
#3 一流に触れるには
あこがれだった藝大での生活はいかがでしたか?
確かにあこがれではあったのですが、入るまでは藝大生の生活がどんなものか思い描く余裕もなかった気がします。あまりリアルに思い描きすぎると、それが手に入らなかった時にガッカリしてしまうのではという恐怖心もあったりして。
藝大に入って良かったことは何でしたか?
何より先生やお友達、先輩など、素敵な出会いがゴロゴロ転がっているという環境ですね。自分一人では手に入れられないものなので。
三雲さんは藝大でも玉井先生に習っていましたよね。三雲さんから見た玉井先生の魅力って何ですか?
やっぱり演奏の素晴らしさですよね。とにかく目の前で弾いてくださる演奏の説得力がすごいんです。
しかもそれを言語化して説明してくださること。もちろん弾いて示せることは大切だと思うんですけど、それを真似することが得意な生徒だった場合、しばらくすると再現できなくなってしまう可能性がありますよね。でも言語化して本質の部分を理解できていると再現性はグッと高くなります。
玉井先生の場合、演奏で示してくださって、更に言葉で理解を深めてくださる。この両方からのアプローチがすごいなと思います。
藝大の生活の中で後悔していることはありますか?
藝大で生活していると、いい意味でも悪い意味でも音楽オタクになるんですよね。それは素晴らしいことなのですが、ドイツ語の語学学校に通ったり、バイトをしたり、藝大の外に出た時に「自分は世間を知らないな…自分のいる世界はすごく狭い世界なんだろうな」と痛感したことはありました。
あと室内楽を組むときに1番難しい弦楽四重奏を選ばず、ピアノ三重奏に逃げてしまったことがありましたね。もちろんピアノ三重奏にも素敵な曲がたくさんありますし勉強になったのですが、弦楽四重奏の「弦楽器だけでアンサンブルをする難しさ」から逃げてしまった感覚がありました。
今思えば藝大に入るまでに、弦楽器だけのアンサンブルをした経験がほとんどなかったんですよね。ヴァイオリンソナタを弾く時にピアノの先生とアンサンブルをする機会はあったけれど… だから藝大に入って初めて、弦楽器だけのアンサンブルの難しさと魅力に気付きました。藝高生や早くからアンサンブルを経験している子達からしたら、すごく遅いスタートだったと思います。
学部を卒業後は、大学院の室内楽科で学ばれていますよね。
はい。ヴァイオリンソナタを勉強するために専属のピアニストさんがついて下さって、教授のレッスンに行く前に念入りに合わせをしてくださり、レッスンにも来てくださるというとても贅沢な環境でしたね。
三雲さんは大学院に在籍中に留学されていますが、留学の時期はどのようにして決めたんですか?
とにかく玉井先生のレッスンが充実しすぎていたので、学部生の時に留学したいとは思えなかったんですよね。「まだ先生がおっしゃることも全然消化できないのに留学しても…」という気持ちと、セミナーで他の先生のレッスンを受けても玉井先生の素晴らしさをより実感する感覚がありました。でもその玉井先生の強い薦めがあって、大学院の途中で留学をすることを決意しました。
留学のタイミングってその後のキャリア形成にすごく大きく関わるので、正解は1つではないですよね。私の選択が正解だったかも今はわかりません。日本でキャリアを築きたいと思ったらやっぱり日本の音大を卒業したという経歴は、ないよりあった方がいいかなとは思います。
スイスでの留学生活はいかがですか?
とにかく綺麗なところですね。バーゼルは大都市とは違って昔ながらの街並みが残っています。田舎育ちの私にとってはすごく落ち着ける街ですね。
留学で印象に残っている経験はありますか?
日本で学んでいた頃、オーケストラは、私の中であまり比重が高くないものでした。オーケストラが好きかと言われても日本にいた頃の私だったら、正直よくわからないと答えていたと思います。自分がどう弾けばいいのかもよくわかっていなかったですし…
でも留学してバーゼル交響楽団や、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のアカデミー生になりメンターさんに色々と教えていただくうちに、段々と「オーケストラって面白いな」と思うようになりました。オペラを弾く経験ができたことも大きかったですね。
また今までYouTubeやテレビの中でしか見たことのないような、ビッグなソリストや指揮者と弾くことができました。間近でオーラを感じたり、後ろから見て「肩甲骨をこんな風に使うんだ…!」と学んだりできましたね。指揮者の指示を1から100まで理解できなくても、音楽づくりの仲間に入れていただけたのはとても貴重な経験でした。
共演して1番印象に残っている音楽家は誰ですか?
パーヴォ・ヤルヴィの指揮でベートーヴェンの交響曲第4番を弾いたことをよく覚えています。またバーゼル交響楽団アカデミー生時代の、カヴァコスのモーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番、特に第3楽章は聴いたこともないような解釈でとても興味深かったです。オーケストラに対しても自分のイメージを明確に伝えてくれていました。
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団アカデミー生時代はやはりイザベル・ファウストのベートーベン ヴァイオリン協奏曲が本当に素晴らしかったです。
今後どのように活動していきたいと考えていますか?
正直言うとまだまだ迷っていることは多いですね…でも1つ言えることは「教える仕事はすごく生きがいを感じられる」ということです。
沼田先生が昔、「先生という仕事は、生徒さんの人生の一部に関わらせてもらうということ。それはすごく貴重でありがたいことです。」とおっしゃっていました。そのことを自分が教える立場に立って初めてひしひしと感じるようになりましたね。
自分の子供時代を振り返ると、先生の言葉はすごく心に残っています。私の母にとってもやはり「先生」という存在で、とにかく人生においてとても大きな存在なんですよね。そう思うと改めて教えるという仕事はすごいなぁと…
私はまだまだヴァイオリニストとしても先生としても人としても成長段階ですが、生徒さんやそのご家族関わらせていただくことで、自分一人では知ることができなかったようなことを教えていただけるこのお仕事は私にとって生きがいだと感じています。
また演奏活動も積極的に行っていきたいですね。
今まさに音楽の道に進もうか迷っている特に地方の中高生に、一言メッセージをいただけますか?
やっぱり良い先生との出会いは大切ですね。音楽家としても人としても尊敬できる先生との出会いは、本当に人生を変えてくれると思います。
とにかく本気になって取り組んでいると本気の人と出会えるんですよね。自分が中途半端にしていると中途半端な人間関係で終わってしまったりして。
最終的に音楽家にならなかったとしても、その出会いや時間はとても貴重で一生物だと思うんです。だから是非今楽器を習っている子には、第一線で活躍している演奏家や指導者と出会って欲しいなと思います。
「私は不器用だから、人の何倍も練習しないと弾けなくて…」と学生時代よくおっしゃっていた三雲さん。成功体験も失敗体験も重ねながら、音楽と真摯に向き合ってきたことを改めてこのインタビューを通して感じました。演奏家としても指導者としても今後の活躍が大変楽しみなヴァイオリニストです…!
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