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柔軟さと問いかけが導く音楽の成長 — 上達の差を生む“学び方の工夫”
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柔軟さと問いかけが導く音楽の成長 — 上達の差を生む“学び方の工夫”

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子供との向き合い方
目次

同じ時期にヴァイオリンを始めた生徒さんでも、ある程度時間が経つと、演奏の進度に差が出てくることは珍しくありません。もちろん、速く上達することが全てではありませんし、音楽において“誰よりも早く難曲を弾けるようになる”ということがゴールではないと思います。

ですが、できることなら効率よく技術を習得し、自分が思い描く理想の演奏に一歩ずつ近づいていきたいですよね。指が自由に動くようになり、音色が思い通りに変化し、表現したい音楽を自分の手で形にできるようになる喜びは、何にも代えがたいものです。

では、進度が速い人とそうでない人、その違いはどこにあるのでしょうか。

もちろん、練習時間や頻度といった「量」の面は大きな要因になります。毎日しっかりと楽器に向かっている人と、気が向いたときだけ練習する人では、習得の速度に差が出るのは当然のことかもしれません。また、レッスンに通う頻度や、先生との相性なども影響します。実際に「この先生に出会ってから一気に伸びた」という話は珍しくありません。

ですが、今日はそのような“外的要因”ではなく、自分の心構えひとつで変えられる“内的な姿勢”について考えてみたいと思います。

柔軟さと疑う姿勢 — 一見矛盾するふたつの態度

私が特に大切だと思っているのは、「習ったことをとりあえず試してみる柔軟さ」と、「自分の中で一度問い直してみる疑う姿勢」です。このふたつのバランスをとることは、簡単なようでいてとても難しいものです。

生徒さんを見ていても、「とにかく言われたことを一生懸命やってみる」というタイプの方がいます。こうした方は、素直に物事を受け入れ、努力する姿勢がとても尊く、一定のところまでは着実に伸びます。ただし、すべてを受け入れてしまうがゆえに、なかなか“自分の音楽”にたどり着けないこともあるように感じます。

一方で、「それって本当に正しいの?」「なぜそうする必要があるの?」と常に疑問を持って考えながら進めるタイプの方もいます。探究心が強く、より深い理解を求めるこの姿勢は素晴らしいのですが、時には「考えるばかりで、なかなか行動に移せない」「何もかも納得してからでないと進めない」といったジレンマに陥ってしまうこともあります。

大切なのは、どちらかに偏るのではなく、バランスをとることです。

私自身の経験から

私自身、子供の頃は先生のおっしゃることをすべて「正解」として受け入れていました。レッスンで言われたことはすべて楽譜に書き込み、毎日の練習ではそれを完璧に再現しようと必死でした。今思えば、それはとても健気な努力だったと思いますし、その時期に培われた基礎が今の自分を支えてくれていると感じます。

けれど、大学や大学院に進み、自分なりの演奏スタイルが少しずつ固まってくると、先生と自分の意見が食い違うことも出てきました。「先生はこう言うけれど、私はこう感じる」「この弓使いの方が、自分の音には合っている気がする」——そんなふうに、自分の中に「反論」や「疑問」が生まれることが増えてきました。

最初は戸惑いました。先生の言うことを受け入れられない自分が「未熟」なのか、「わがまま」なのかと悩むこともありました。でも今振り返ってみると、そうやって葛藤を重ねることこそが、自分の演奏を深めるきっかけだったのだと思います。

音楽に“絶対の正解”はありません。だからこそ、柔軟に取り入れ、時に疑い、自分の中で咀嚼していくというプロセスがとても大切なのです。

生徒さんたちに見られる傾向

教える立場になってからは、よりいっそう、この「柔軟さ」と「疑う姿勢」のバランスの重要性を感じるようになりました。

例えば、ある生徒さんは、レッスンで新しいボウイングを紹介すると、すぐに「とりあえずやってみます!」と明るく取り組んでくれます。その結果、「思ったよりもしっくりきました」「こっちの方が音が良く出ます」と、自分の中で発見を重ねていきます。

一方で、「なぜこれをやる必要があるのか」をまず自分なりに理解したい、という生徒さんもいます。私が説明を加えながら一緒に考えていくと、「なるほど、そういう意図なんですね」と納得して取り組めるようになります。

どちらの姿勢も、それぞれに良さがあります。大切なのは、その場その場で自分の状態を見つめながら、必要に応じて柔軟さと疑問のバランスを調整していくことです。

「試してから考える」ことのすすめ

私が特におすすめしたいのは、「まず試してから考える」というスタンスです。

レッスンで紹介されたこと、新しい奏法や練習法などは、まずは“実験”のつもりで気軽に試してみてください。すぐにうまくいかなくても大丈夫。少しずつ体が慣れていくうちに、新しい感覚やヒントが得られることがあります。

そのうえで、「これは自分に合っているかな?」「他の方法はないだろうか?」と問い直してみればいいのです。頭の中だけで「合う・合わない」を決めつけてしまうと、成長のきっかけを逃してしまうことがあります。

音楽は、常に“身体と心”の両方で取り組むもの。頭で考え、体で感じ、心で表現する——そのプロセスを大切にすることが、豊かな演奏につながっていくと私は信じています。

最後に — —学び続けるということ

音楽に限らず、何かを学ぶということは、常に「変化」を受け入れることです。今まで知らなかったことを知り、できなかったことが少しずつできるようになる。とても嬉しいことですが、同時に、自分の中の“慣れ”や“プライド”と向き合う必要も出てきます。

だからこそ、どれだけ長く続けていても、「柔軟さ」と「疑問を持つ姿勢」は手放さずにいたいと思っています。

今日は自戒も込めて、学ぶ姿勢について書いてみました。

今、少し伸び悩んでいる方や、新しいステップに進もうとしている方のヒントになれば嬉しいです。

著者
吉川 采花
東京藝術大学音楽部器楽科卒業。ウィーン市立音楽芸術大学修士課程修了。Hamamelis Quartett 第二ヴァイオリン奏者。
2021年、音楽レッスンサービス Academy Customizeを立ち上げる。現在は東京を拠点に演奏活動をしながら、全国各地で後進の指導にあたっている。

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